君は何か書く仕事をしてるそうだな」と牧村拓は言った。
「書くというほどのことじゃないですね」と僕は言った。「穴を埋める為の文章を提供してるだけのことです。何でもいいんです。字が書いてあればいいんです。でも誰かが書かなくてはならない。で、僕が書いているんです。雪かきと同じです。文化的雪かき」
「雪かき」と牧村拓は言った。そしてわきに置いたゴルフ・クラブにちらりと目をやった。「面白い表現だ」
「それはどうも」と僕は言った。
「文章を書くのって好きか?」
「今やってることに関しては、好きとも嫌いともいえないですね。そういうレベルの仕事じゃないから。でも有効な雪かきの方法というのは確かにありますね。コツとか、ノウハウとか、姿勢とか、力の入れ方とか、そういうのは。そういうのを考えるのは嫌いではないです」
『ダンス・ダンス・ダンス』 村上春樹 講談社 1988
「文化的雪かき」。
文章中の意味は比喩だけど、飛騨には本当の意味での「文化的雪かき」があると思います。
雪かきは、好きとも嫌いともいえないと人が多いですねきっと。
むしろ好きって人、地元民にはそんなにいないと思います。笑
冬の始めか、子どもか、観光のみなさんくらい。
毎日のことになると、そういうレベルの仕事じゃないから。
でも有効な雪かきの方法というのは確かにありますね。
車なんかもたくさん降りそうな日はワイパーをあげておきます。
埋もれて凍り付いてしまわないためにです。
通常はかいた雪を広い空き地に持って行って、春に溶けるまでそのままというパターン。
住宅が多くて広い空き地のない古川町の町中では、瀬戸川をはじめとする用水路に雪を流すことになっています。
でもみんなが一斉に雪を流すと、水量より雪の量の方が多くて詰まってしまいますよね。
そうならないように、かいた雪を流せる時間が決まっている地区もあります。
今日は〇時~〇時が△区、みたいに時間割風に。
ある地区では朝5時~正午までは1時間半ずつ、正午~夜10時までは2時間ずつ、さらに小さい地区に分かれて流す時間が割り振られているそう。
なので時間になるとみんな外に出てきて雪かきをします。
これって当たり前の冬の日常だけど、雪国じゃない地域からしたら特殊なんだろうなって考えると「文化的」にも思えてきます。
JR飛騨古川駅前や神岡町の西里通りなど商店が多いところでは、お客さんのために降ったらすぐ雪かきをします。
「文化的雪かき」見てみたいって人はこの辺りでは特に頻繁に見ることができるかも。
こういうローカルな面を見られるのも、旅に来たんだって実感するところじゃないかなあと思います。
冬の飛騨旅行で、ぜひ探してみてください。
また、飛騨市は移住者に向けて「屋根の雪下ろし」講習もしています。
他ではあまり聞かない講習、こういうのがあると安心ですね。
普段は気づいてないだけできっと「文化的雪道の歩き方」もあるし「文化的雪の日の服装」もあるし、その土地に根付いた文化的なものってたくさんあるのかも。
本を読むとそんなことも思ったりするものですね。
カーリルという、日本最大の図書館蔵書検索サイトでは、リアルタイムであの本が借りられるかチェックできます。
購入したい人はこちらからも。